「うー…金やんのバカ」
まとめた楽譜で本人不在の席を叩いても意味がないことぐらいわかっているけれど、八つ当たりしなきゃやってらんない。
せっかく天羽ちゃんが誕生日のお祝いにって、ケーキをご馳走してくれる予定だったのに。
「はぁ……」
何が悲しくて音楽準備室の片付けをしなきゃならないんだろ。
事の始まりはほんの数十分前にさかのぼる。
放課後、天羽ちゃんと「せっかくだし、冬海ちゃんも誘ってみないか?」なんてこれから向かうケーキ屋さんの話しをしていたときだ。
ちょうど金やんの姿が目に入って思わず「金やーん!」なんて声をかけちゃったのが運の尽き。
よくよく見てみれば、珍しく焦っている顔をしていて。それがあたしを見た瞬間、キランと目の色が変わったんだ。なんていうか、獲物を見つけたライオンみたいな。
で、そのライオンは逃さないと言わんばかりズンズン向かってきて「お前さんに重要かつ重大な任務があるんだ。ついてきてくれるよな」と半ば強引に拉致られた。
「いやー会議に使う資料が見当たらなくて部屋をひっかき回しちまってなぁ」
そして着いた先が、プリントやら楽譜が散乱した音楽準備室。
この前、片付けたのになんでこうなっちゃうんだろ。
恨めしげに金やんを睨めば、笑って誤魔化そうとする金やんがいる。
「つーことで、すまん、!あとは任せた!」
「えっ!?」
「これから俺は会議なんだ。30分ぐらいしたら帰ってくるからなー」
ジュースおごってやるから待ってろよーと金やんはそのままあたしを置いてバタバタと走り去ってしまったんだ。
「…………」
任された以上は放置するわけにもいかず。天羽ちゃんには申し訳ないけど(あたしが悪いわけじゃないのに)詫びのメールを送って、この荒れた音楽準備室を片付けることにした。
「……購買のパンもおごってもらおう」
そしてバラバラになっていたスコアを順番に並べて、ようやく片付けが終わった。
金やんに拉致られなければ、きっと今ごろはケーキを頬張っていたに違いない。そう思うと、ジュース1本じゃ割に合わなくなってきた。
「おー綺麗になっとる、なっとる」
「あ、おかえりなさーい」
会議が終わったらしい金やんが部屋に戻ってきた。そして、手には会議で使ったと思われる資料と金やんには不釣合いないちご牛乳。
ほれ、と渡されて受け取ると同時にあたしは鞄を持った。
「あー待てまて。お前さん、もう帰るのか?」
「うん。天羽ちゃんたちが待ってるし」
さっきメールをしたところ、ケーキ屋さんでお茶をしながら待っていてくれるらしい。それなら早く行かなきゃ悪いし。と、説明したところで、金やんがガシガシと頭をかいて苦い顔をした。
不味いことでも言ったかな、と一瞬不安になったけど、何も悪いことは言ってないはずだ。それなのに金やんは「あー…」とか「うー…」とか言いながら悩むこと数十秒。金やんは机の上に置いてあった自分のバックを開けると、正方形の綺麗にラッピングされた箱を取り出した。
「……ほれ」
「へっ?」
あけてみろ、と金やんにうながされるまま箱を受け取ってリボンをほどいて包装紙をあける。
すると、白い花の髪飾りと同じく白い小花がついたヘアピンが出てきた。
「金やん、これ……」
誕生日プレゼント?
「いや。日ごろからには世話になってるからな、そのご褒美だ。ま、お前さんの誕生日が偶然、たまたま今日だっただけの話だ」
でも、とあたしが言いかけると金やんはフイッと顔そむけて「教師がこーいうモンを生徒にホイホイあげるわけにはいかんからな」と小声でつぶやく。
まさかもらえるなんて思ってもみなかったし、誕生日を知っていること自体びっくりだ。
「あ、ありがとう金やん!大事にするねっ」
「大事にしてもらっちゃ困るんだがなぁ」
「えーっ、なんで」
「俺の代わりだからな」
金やんの代わり、という言葉の意味を問おうとしたところで、頭に手がおかれた。
手の感覚をしみこませるように指先を髪に絡ませながら、ゆっくりと頭を撫で髪をすいていく。
言葉にしてはいけない秘めた熱がこもるよう、髪の間を縫って離れないように。
そしてヘアピンをあたしの髪に差し込むと穏やかに微笑んだ。
「か、な……やん?」
「…………悪くないな」
名残惜しげに手を離して苦笑する。
さっきまで金やんが触れていた髪が熱くて、顔までそれが伝染したみたいだ。
「お前さん、顔、真っ赤だぞ」
「ううぅ、うるさい!」
「こんなんで真っ赤になっているようじゃ、まだまだお子様だな」
ケラケラ笑われて、またコドモ扱いされる。
むぅっとふくれっ面をすれば、金やんはなだめるようにこうつぶやく。
誕生日おめでとう、と。
*
おまけ。
Side:K
が天羽のところに向かって、ようやく一息つく。
(……らしくないことだらけだな)
プレゼントを渡す口実を考えていたら会議は忘れかけるわ、資料をどこにやったか焦るわ。
結果的にご褒美ってカタチで無事にプレゼントを渡せたて良かったんだが。
大体、プレゼントのチョイスも本当に俺らしくない。
――――あたしね、金やんに頭をぽんぽんって撫でられるのが好きなんだ〜。
何をあげるか悩んでいたとき、ふいにそんなことを言われたのを思い出した。
ちょうど手がおける高さにあるからついやってしまう、なんていえるわけもなく。
あのときは「そーか、そーか」と思いっきり髪をぐしゃぐしゃにしてからかってやったけど、でもついやってしまうクセの先にはの笑顔があった。
だから、ヘアピンや髪飾りをプレゼントしようと考えたんだ。
俺以外の男に笑顔を簡単に見せないように、って。
「あー……」
ヘアピンでもつけてりゃ、そう頭を撫でようなんざ思わなくなるだろ。
なんて、自分でもそれはないだろ、とツッコミたくなるくらい独占欲がひどい。
でも、せっかくの誕生日で一つ俺の年と近づくワケだから特別にしてもいいだろうと自分勝手に納得させる。
「Happy Birthday 」
あとどれくらい日にちが経てば、お前さんの名前を堂々と呼べるだろう。
Special Thanks 海月あや サマ
あやさんからお誕生日プレゼントとして頂きました、あたしの金やんです。
え?間違えてる?どこ?(真顔)あぁ(ぽん)
あたしの金やんをお誕生日プレゼントに貰いました(病気かお前(笑))
いやいやいや、まさかの予想外でございました。
だってあやさん金やん書かないじゃん!!とか思ったら、あちこち参考にして下さったそうで…頭が上がりません。
獲物を見つけたライオンとか大好きです!
食べられる気満々な草食動物……げほげほ(ちょっと落ち着こうか)
しかもちょいちょい風見が好きな飲み物とか入ってるし(笑)
その辺が、よく見てくださってるなーとか思いました。
でも一番好きなのは金やんサイドの話DEATH☆(←何故ここでそれを使った)
えぇ、だって私…独占欲ある人大好きですもんっ!
普段出さない人ほど、出してくれたら眩暈するぐらい好きですもん!
金やん大好きだーっ←はい、もうおかしくなったので、止めましょう。
遅くなりましたが、素敵誕生日プレゼントをありがとうございましたm(_ _)m
もっと海月星和さん(あやさん)の素敵夢に浸りたい方はコチラからどうぞw